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白の歌姫

第3章 もうひとつの旋律

梨杏はいつもの小さな音楽室に駆け込み、扉を勢いよく閉めた。
動悸を沈めようと、丸椅子に座る。

『三波梨杏です。』
さっき口にのぼりかけた言葉を心の中で反復する。
『三波です。三波梨杏。』
突如襲われた激しい感情に、彼女は混乱する。
『どうして、どうしてあんなに楽しそうなの?どうして私は、話してはダメなの?』

その言葉は、涙となって溢れ出る。
『私は、三波梨杏。三波梨杏です!』

声なき嗚咽が漏れ出して、小さな音楽室を満たす。

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