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SYらぶらぶ集〜X❤︎L〜ゼロリナ

第6章 月酔ールナトリップ-




ーー本当に愛している者同士なら、そう言う気持ちは言わなくても、分かるなんて思ってた。
・・・でもそれは、小さい子供の単なるわがままでしかないのよね。

悲しげに、呆れすら含んだ少女のつぶやきは、誰にも届かずにじんわりと酒場に流れる柔らかな音楽に掻き消された。

「会いたいって、一言すら言えないし、ましてやどこにも行かないでなんて・・・言えないもの」

【どこにも行かないで】なんて、仕事だと言う相手に対しては最大の禁句だと、それが暗黙の了解だと分かっている少女だからこそ。
甘えたくない。相手とは対等でいたい。そんな、強気で負けず嫌いな少女だからこその、意地。
甘えられたらどれだけ楽だろうか?・・・もっとも、少女の性格上あり得ないので、単なる言葉遊びに空論でしかないのだけど。

「でも・・・会いたくなる。慣れなんてない。


・・・ずっと、傍にいて欲しいとは言えない。でも、それでも・・・


こんなに長い期間会えないのは、不安だし。イヤ。いや、よぉ・・・」

お酒も入っているからか、いつもよりかなり涙脆くなっているみたいで・・・少女はポロポロと、大粒の涙を溢れさせていた。
それを無言で見ていたマスターは、ふぅとため息をつくとコートを羽織って。

「宿屋まで送ってあげよう。どこに取ってるんだい?」
「・・・あ、この酒場から右に三件先の宿」
「ああ、あそこか」
「その心配は要りません」

今まで誰もいないはずだった酒場の一番奥のテーブルから、凍てつく様な突き刺す様な声音で、何者かが二人に言い放った。
少女は目を見開いて、その声の主を確認しようと振り返るが、誰もいなかった。
・・・気のせい?


・・・と、ぐいっと何少女の腕を掴む何者かの手。
そのまま後ろ抱きの形で自らの懐に納めて、吐息すら奪うような口づけをする。
その口づけのあまりの余裕のなさに、息苦しさすら覚え。それでも離してはくれない相手。酸欠で頭がぐらぐらと眩暈すら覚えてしまう。
一度離されたかと思えば、また更に唇を求められ、あっという間にまた囚われる。きつく、痛いほどの抱擁に、甘くてそれでいて苦しいほどの口づけ。そして、少女が待ち侘びた人ならざる者の、本来なら体温を持たない作り物の躯。
余りにも焦りを含んだキスに、ようやく解放された少女は息絶え絶えに、言葉を紡いだ。


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