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SYらぶらぶ集〜X❤︎L〜ゼロリナ

第11章 悲しみに捧ぐリコリスの花束を


「が・・・うり・・・?」

まだ、彼女の名前だけは口には出来なかった。事実を、真実だと受け入れる勇気が、ないから。
二度と二人を見ることはないと、そう思っていたのに。

彼の姿を見るだけで。

まだ、こんなにも。


彼を、愛しいとーーー恋していると、心がひっきりなしに、叫ぶ。苦しいほどにーーー狂おしいほどに。

「・・・が、うりい」

無意識に、一歩。


また、無意識に一歩。

彼に近づく少女の足は、フラフラと覚束ない。まるで、産まれたての子鹿のように、頼りなく、ぎこちない少女の足取り。

ーーと、彼の陰から、あの【彼女】の姿が見えた。少女は表情を固め、ぴたりと歩みを止めた。・・・やっぱり、彼女も一緒だった。三ヶ月前まではその場所は自分だけのものだった。でも今はーーー

忘れた、つもりだった。
でも、彼と【彼女】を見ると、否応無しに思い出してしまう。その、変えられない、戻れない事実を。

静かに、雨の中に佇む。
だのに。
なにも、感じない。暖かいとも、冷たいとも。
少女から、かすかに、声が漏れる。


ーーー独りに、しないで


その声は空間に溶け、誰も返すことなくかき消えた。軒並みを歩く青年も、彼女も、もう見えなくなったのに。
リナは動けず、ただ、静かに空間と同調して、通行人すら気にも留めない。ーーーしばらくした時、少女にマントをかぶせ、慌てた様に声をかける影一つ。



「リナさん!なにを・・・してるんですかっ、風邪引きますよ・・・」
「・・・ね、ゼロス。


また。あたしを抱いて・・・何もかも、忘れさせて・・・」

少女のただならぬ様子に、何があったか瞬時に読み取った青年は、目を見開き、そして無表情で一言告げた。

「イヤです。」

リナは、ハッと顔を上げた。
叱るような、そんな青年の瞳。
少女は、初めて。
あまりにも、残酷なことを口にしたと、自覚した。

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