涙話 -Beeindruckt sein-
第1章 仮面夫婦生活
だが娘に話されてから、
意識的に何度か妻へ話しかけてみた。
妻はわずかに驚いた顔をしたが、すぐに俺が惚れた笑顔を見せていた。
その顔を見ると、様々な感情が身体中に巡り
俺は泣き出してしまいそうになった。
どうすれば良いのか分からなかった。
そんなある日仕事中に電話があった。
娘からの着信だ。
受話器を取るとき嫌な予感がした。
「はい」
「お父さん…!!!お母さんがっ…手首を切って…!!!」
娘の泣きじゃくる声が電話口から聞こえた。
俺は急いで病院へ向かうと
横たわる妻がいた。
医師に聞くと、
「奥さまは無事ですよ。
幸い浅い傷でしたし、早期発見でしたので…。
しかし、精神的には弱っているようですので、
このまま入院をして、退院後も定期的に通院をしていただくことになります」
「そうですか…ありがとうございました」
妻のもとへ行くと目を覚ましており、
俺を見るなり
「ごめんなさい…本当にごめんなさい…」
と繰り返し謝っていた。