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フーセンガム

第80章 だからこそ

(二宮side)

大人になった証拠なのかもしれない。

欲しいものは、『欲しい』と言える。
嫌いなものは、『嫌い』と言える。

好きなものを、『好き』と言えない。

伝えたい言葉が、言えない。
喉に、詰まって口に出せない。

『素直になれない』

これが、大人になった証拠なのかもしれない。

櫻「和也、もう時間だぞ」

翔は、更にかっこよくなっていた。
昔は、気にしてなかった服装にも気を配るようになっていた。

スーツも似合う、“大人の男性”って感じがする。

「へ?もう?」
櫻「寝てたんだよ」

優しく微笑みかける翔に、吸い込まれそうになる。

「あ、あぁ…そっか」

こたつから、なくなく出て鞄を手に持ち、玄関で肩にかける。

櫻「和也」
「ん?なに?」
櫻「今日は、ハンバーグ食べよ」
「えっ、翔が作るの?」

ついこの間。
翔が、オムライスを作ってくれた。

オムライスじゃなかったよ、あれは。

不恰好な上に、苦かった。

どうしたら、苦くなるの!?ってくらい苦かった。

櫻「違うよ。外食」
「高級なのは、やめてね」
櫻「わかってる。」
「じゃ、帰るときに連絡するね」
櫻「うん。正門で待ってる」

翔と、離れるのが名残惜しい。
上目遣いで、翔を見つめる。

櫻「和也」
「ん?なに?」
櫻「キスしよう」

頭で、言葉を理解したときには、
唇を奪われていた。

櫻「っ…いってらっしゃい」
「んふふ、いってきます」

翔は、俺の考えてることがわかる。

けどね、自惚れたら駄目。

また、翔と離れるのことになるかもしれない。

言わないといけないことは、たくさんあるのに。

伝えたいことも、たくさんあるのに。

どうも、言葉にできない。

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