妖魔滅伝・団右衛門!
第4章 足軽退魔師団右衛門
しかしそれは、嘉明に対して最大の失礼である。嘉明の肩に乗せられているのは加藤家の家名、そしてそれに従う家臣と、治める土地の人間全てなのだ。それを捨て自分の元に来いなどと、言えるはずがなかった。
「いや、なんでもない。それより、もてなしてくれると言うならば、茶でも出してくれないか。酒はいくら飲んでも満足だが、今日は茶の気分だ」
「その顔色を見て、酒を勧める人間などいない。ああ、そう言えば、最近茶の湯が流行っていると聞いたが」
「ああ、千利休の侘び茶を秀吉様がいたく気に入ってな。これからの流行りを押さえるなら、茶の湯は必須だろう。なんでも秀吉様は、九州征伐に決着が着いたら、大規模な茶会を開きたいと考えているとか」
飲み込んだ言葉の意味も、恐らく嘉明は薄々感づいているのだろう。話題をたわいもない雑談へ変えてくれた事に、清正はまた感謝した。
嘉明は清正と共に過ごし、あっという間に夜が訪れる。二人で夕餉を食べている所へ団右衛門が慌てて現れた時には、もうすっかり辺りは暗かった。
「悪りぃ、清正! オレ、なんか寝過ごしたみたいで……って、嘉明!?」