妖魔滅伝・団右衛門!
第4章 足軽退魔師団右衛門
嘉明らしい、なんの柄もない真っ白な手拭いは、八千代の心臓を高鳴らせる。布地にそっと唇を触れさせると嘉明に口付けしたようで、八千代は気恥ずかしさに埋めた顔を上げた。
(それにしても……あの人を、本当に雇うなんて)
団右衛門は猫又を妖虎に変える能力の持ち主だ。非凡であるのは、八千代にもよく分かっている。しかし団右衛門の性格は、本来嘉明が一番嫌うもの。側にいる八千代は、それもよく分かっていた。
ふと頭に過ぎるのは、二人がまぐわい愛し合う光景。思い出すだけで息が詰まりそうになるのに、忘れる事は出来なかった。
(……どうして嘉明様は、あんな人を側に置くんだろう。ぼくよりずっと長く仕える人だって、ずっと偉い人だって、皆平等だったのに)
中身を気に入るはずがないのなら、嘉明に杭を打てるのは体である。八千代のまぶたに焼き付く光景は、頭に一つの答えしか与えなかった。
その答えに頭が沸騰しそうになったその時、どこからか地を這うような低い声が聞こえる。八千代は顔を上げ辺りを見回すが、声の主は見当たらなかった。
『あれが気に入らぬなら、殺してしまえばいい』