
妖魔滅伝・団右衛門!
第5章 悠久と団右衛門
嘉明の手が、団右衛門の着物の合わせ目を掴んで乱す。同時に向けられる目線は、男を誘い、引き込む魔性である。逆らうつもりなど始めからあるはずもない団右衛門は、舌なめずりして嘉明を床に押し倒した。
が、その瞬間襖の向こうから八千代の声が響く。
「嘉明様、ご準備はよろしいでしょうか? 出立の時間が迫っていますが」
丁寧で生真面目な声は、欲に染まる頭を一瞬で現実に返す。嘉明は慌てて団右衛門を押しのけ口元を拭うと、襖を開き頷いた。
「問題ない、すぐに出よう」
嘉明は足早に出て行ってしまい、団右衛門は欲を持て余したまま残されてしまう。八千代はトラが鈴を鳴らしながら嘉明の後を付いて行くのを怯えながら見送ると、尻餅をついたような姿勢の団右衛門の前にしゃがみ込んだ。
「団さん、なにをしていたんですか? なんだか運動でもした後みたいに着物が乱れてますが」
「へ? あ、ああ……トラ、そう、トラと遊んでいてな。妙なところで妖虎にならないよう制御したついでに、遊んでやったんだ」
団右衛門からすれば、八千代は弟分であり、共に嘉明を慕う複雑な関係だ。少なくとも秘め事を話す間柄ではないので、ひとまず出任せを言ってごまかした。
