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妖魔滅伝・団右衛門!

第5章 悠久と団右衛門

 
「さあ……でも凄いですね。ぼく、黄金なんて見た事ないです」

「全部黄金なら、ちょっとくらい金を剥がしてくすねても分かんないんじゃないか? 欲しいよな、金」

「団さん! 豊臣の兵に聞かれたら、処刑されちゃいますよ」

 八千代は辺りを見回し咎めるが、団右衛門は構わずに続ける。

「ま、黄金なんて庶民にゃ程遠いが、秋の田んぼに広がる黄金も綺麗なもんだ。オレの生まれ故郷は米がよく穫れてな、そりゃ見事なもんだったのさ」

「そういう黄金なら、ぼくも見たいですね。目も、後々お腹も満たされますし」

「八千代は、どうだ? あの兄ちゃんから……故郷の景色とか、聞かなかったか」

 のどかな風景に微笑んで雑談していた八千代が、ぴくりと震え固まってしまう。そして俯くと、小さく首を横に振った。

「一緒に川遊びしたとか、虫取りしたとか、そんな話は聞きましたが……正直、聞きたくないです。だってそんな話、ぼくじゃないですもん。仮に昔のぼくが本当にそんな事をしていたって、今のぼくは……」

「八千代……」

「分かっています。忘れたままではいけないですよね。でも、昔の記憶なんて、どうでもいいんです。ぼくにとっては、今が全てですから」
 

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