
妖魔滅伝・団右衛門!
第5章 悠久と団右衛門
失った記憶を取り戻す。どんな思いでそれを受け止めなければならないのか、団右衛門には想像しか出来ない。教えられた事が本当かどうか、八千代自身にも分からないのだ。嘘を吐かれるかもしれないという不安、偽の記憶を植え付ける恐怖だって、おそらくはあるに違いない。
(これは……八千代から何か聞き出すのは、酷だな)
団右衛門は追及の言葉を諦め、代わりに俯いた八千代の頭を撫でる。
「ま、八千代の過去がどうであろうと、嘉明は八千代を大事にするさ。自分から辞めたいとでも言わない限りは、城に置いてくれるだろ」
「そう……でしょうか。もし、もしですよ? ぼくが罪人で、そのせいで記憶を失ったとしたら」
「そん時は、加藤家の法度によって裁かれるさ。あんたはもう、加藤家の人間なんだからな」
すると八千代は顔を上げ、涙を堪え赤くなった目を団右衛門に向ける。
「……ありがとうございます、団さん」
「嘉明が戻る前に、ちゃんと笑顔に戻しとけよ。あんたすぐ泣くから、心配されてるぞ」
「はい!」
八千代は目をこすり、精一杯の笑顔を作る。悠久が鬼ならば、八千代の心にもいらぬ傷が増えるのだ。団右衛門は気を引き締めようと、背筋を伸ばした。
