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妖魔滅伝・団右衛門!

第7章 さすらい団右衛門

 
(毒されている、か)

 ふと嘉明は、遠い昔、数度だけだが顔も合わせた事もある武将・織田信長の口癖を思い出す。

「……是非も無し」

 膝を抱え、嘉明は目を閉じ団右衛門を待つ。しかしそれからしばらくして戻ってきた小姓は、青い顔をして嘉明に頭を下げた。

「団右衛門殿が、出奔なされました」







 帰ってきた淡路の地に、鬼の気配があるのかどうか、分かる者は一人もいない。しかし志智は変わらず平穏で、鬼が隠れているような土地には見えなかった。

 城に戻ってきた嘉明は、暇があれば猫又――トラと戯れ、笛を吹くようになっていた。とある日、一人の家臣が嘉明に、どうして突然笛を吹くようになったのか尋ねた。しかし嘉明は意味ありげに微笑むだけで、何も語ろうとはしない。ただ、時々月を眺めながら笛を吹く背中は、酷く寂しく小さく見えた。

 団右衛門は戻らず、八千代も謹慎を解かれぬまま。嘉明の日常は静かで、味気なく過ぎていた。

「殿、馬はすばらしいと思いませぬか」

 そんな嘉明の日常に一石を投じたのは、馬番の一人である齢十五の少年、太助だった。
 

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