
妖魔滅伝・団右衛門!
第7章 さすらい団右衛門
馬番が青くなる理由も嘉明が笑う理由も理解できないようで、ひたすら太助は眉をひそめる。嘉明はひとしきり笑うと、他の馬番に向けて口を開いた。
「悪癖を直し万人に好まれるよう慣らそうとすれば、馬はかえって元の良さを失うものだ。しかしそれでは本末転倒。私は多少の癖があろうが、荒い馬の方が好きなのだ」
「殿……」
「最近は特にそう感じる。だから、あまり気にするなよ」
馬番達は嘉明の意を察すると、胸を撫で下ろし涙を滲ませて平伏す。しかし太助は一人顔を上げ、今日一番に目を輝かせて語った。
「それがしも、癖があっても強い馬の方が好きです!」
「……そうか、気が合うな。しかしお前は、まだまだ若いようだ」
「若い……? 殿に比べれば、確かに若いですが、それが何か問題でしょうか」
「いや、若さはよほどでない限り、時が解決するもの。問題ではないな」
嘉明は太助の頭を撫でると、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。
「大きく育てよ。お前はきっと、そういう器だ」
太助は意味こそ半分も理解していないが、力強く頷く。若い太助の未来に心を躍らせると、嘉明は厩を去っていった。
