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妖魔滅伝・団右衛門!

第1章 夜討ちの退魔師団右衛門

 
 嘉明の意外な言葉に、鬼は手を止め目を見開く。そしてまた機嫌良く笑うと、嘉明の髪をもう片方の手で梳きながら答えた。

「鬼相手に名乗りを求める人間は初めてだ。確かに武士の世界では戦の際、名乗ってから争うと聞くが、いやまこと律儀な男よ」

 鬼はしばらく悩むと、一人で頷く。

「名前など儂にはないが、お主――いや、嘉明のために今考えてやったぞ。儂は、八代だ」

「……八千代と似ていて呼びにくいではないか」

「気にするな。どうせ八千代とは、二度と会えぬ身となるのだ」

 すると鬼――八代は、嘉明に荒々しく唇を落とす。嘉明は噛みつこうと反撃するが、顎を抑えられ封じられてしまった。閉じる事の出来なくなった口に注がれる、八代の唾液。犯されるままそれを飲み込んでしまった嘉明は、体に違和感を覚えた。

「さすが、気付くのが早いな。鬼の体液は、人にとっては毒と同じ。体が、動かなくなってきただろう?」

「毒……だと」

 まず唾液の通った喉から麻痺を起こしているのか、嘉明は呂律が回らなくなりそうな頼りない舌に動揺する。隙を見て暴れようとしていた腕や足も、一気に力を失う。
 

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