
妖魔滅伝・団右衛門!
第8章 八千代の想い
「こんなところに、一人でどうしたんだ?」
それは八千代が鬼にさらわれてから、悲鳴と怒号以外に向けられた人間の言葉だった。
「え……?」
鬼に近づくにつれ、色が抜けて日の本の人間らしからぬ茶色に変わった髪。痩せこけてはいるが、長らく食事を取っていないのに地に着いた足。八千代の中身は鬼であり、外見は異国の浮浪者である。
『新たな餌を探し、連れてこい』
そう一方的に命じられ放り出されてから、何回陽が昇り下りしたか分からない。自分が今どこにいるのか、今がいつなのかも分からない八千代は、一目見るだけで厄介者の空気を醸し出していた。
「殿! そのような孤児らしき童に気軽に声を掛けてはなりませぬ!」
周りにいる武士らしき男達は、慌てて声を掛けた男を止める。殿と呼ばれたという事は、目の前にいる彼はかなりの身分である。しかしその男は、構わずに八千代に手を伸ばした。
「随分汚れているな。泥遊びでもしたのか、それとも……」
八千代の頬に触れる、赤い血の流れる手。温かい熱を感じた瞬間、八千代の体に稲妻が走り、中に宿る鬼が叫びを上げた。
