
妖魔滅伝・団右衛門!
第8章 八千代の想い
八千代の瞳から、大粒の涙が零れ出す。込み上げる思いは嗚咽となり、遠く過ぎ去った童の頃のように泣き叫んでしまう。
八千代を慰めるように、嘉明は頭を撫でる。差し伸べられた人の手に縋り、八千代は嘉明に抱き付いた。この手を掴んでいる限り、鬼と化した自身も人でいられるような気がしたのだ。止まらない泣き声は、人として再臨した産声だった。
流れる青い血は、畳一面を汚している。無数についた傷跡は、致命傷のはずである。しかし団右衛門が何度刃を走らせても、八千代が倒れる事はない。
(もう……八千代の体に魂は宿ってない。鬼の気を詰め込まれて動くだけの、人形なのか)
団右衛門が出て行くまでは、鬼と化したいたものの、八千代自身の魂も存在していた。しかし今は、八千代の生気が欠片も感じられなかったのだ。
『良い事を教えてやろう、退魔師』
八千代の口から発せられるのも、もはや八千代の声ではなかった。
『お主の言う通り、八千代は鬼と人との間で悩み続けていたのよ。だから餌を見つけても儂に知らせず、小姓となったのだ』
