
妖魔滅伝・団右衛門!
第8章 八千代の想い
鬼の声に耳を傾けてはならない。それは退魔師である団右衛門が一番分かっているが、奥底で戦を拒む心が、耳を開かせてしまう。
『京でお主を追撃しなかったのも、自分が手を下さずお主が死ねば、嘉明に疑われずそばにいられるのではと悩んだため』
「……るさい、だからなんだ! 全部悪いのはあんただろ!!」
『悪いのは儂ではない。人であろうともがく八千代をいつも修羅に突き落としていたのは、お主だ』
鬼の言葉に団右衛門の足が止まり、構えが崩れた。そうなれば鬼は止まらない。嘲り、矜持を踏み潰し傷を抉るように、団右衛門に絶望を叩きつけた。
『村を襲撃しても、完全なる鬼に変わっても眉一つ動かさなかった八千代が、嘉明によって人の心を思い出したのだ。八千代にとっては、嘉明の存在こそが太陽。嘉明が道を照らす限り、八千代は人であれたのだ』
八千代の成れの果てが目の前に立っても、団右衛門は足を釘で打たれたかのように動けなかった。
『しかし、太陽は食われた。誰にでも変わらず同じ光を照らすはずの太陽は、突然現れた得体の知れぬ無頼漢に浸食されてしまった。退魔師……お主に嘉明を犯され、八千代の空は曇ったのだ』
