妖魔滅伝・団右衛門!
第10章 さよなら団右衛門
するとその時、馬の嘶きが辺りに響く。勇猛な馬の足音と共に現れたのは、団右衛門が一番顔を合わせたくなかった人物――嘉明だった。
「塙団右衛門直之、お前に一つ命令がある」
嘉明は相変わらず表情が読めないまま、馬を下り団右衛門の前に立つ。団右衛門が一歩下がれば、背中にぶつかるのはぬりかべ。もはや団右衛門に、逃げ場はなかった。
「八千代の後を継ぎ、足軽ではなく小姓として私に仕えよ。異論は許さぬ」
「……小姓?」
団右衛門は理解するまで時間が掛かったのか、しばらく目を丸くしたまま固まっていた。足軽の立場に不満を持っていた団右衛門が、本来それに異論を唱える理由はない。しかし団右衛門は、首を横に振るとうなだれた。
「断る。あんたの家臣はもう止める。オレは流浪の身に戻るって決めたんだ」
「私の元から離れると言うなら、奉公構にして武士の道を断つぞ。それでも嫌だと言うか」
「好きにすればいいだろ。他に仕えるなんて、考えられねぇし」
すると嘉明は、一二三とぬりかべに下がるよう言い聞かせ、団右衛門に街道沿いの木陰へ座るよう指示する。顔を合わせた以上、もはや逃げても仕方ない。目を合わせようとはしなかったが、団右衛門は言われるまま座った。