妖魔滅伝・団右衛門!
第10章 さよなら団右衛門
嘉明の返事はなく、辺りは静寂に包まれる。団右衛門は胸を押さえ、胸の痛みに耐えていた。団右衛門は、昼間に嘉明が自分を一つも責めなかったのは、結果八千代を救ったからだと思っている。しかし、欲深い自分の業を知れば、もう許される事はないと考えていた。
動いていないのに、鼓動は大きく、早くなる。隣の嘉明がどんな表情なのか、窺えるはずがなかった。清廉潔白で強い嘉明が、業を背負う団右衛門を好く理由などない。今まで向けられていた信頼が、侮蔑に変わる瞬間。それを想像するだけでも、絶望の海に叩き落とされるようだった。
「これ以上あんたを騙して、側にいる事なんか出来ねぇ。こんなオレが八千代の後を継いだら、八千代が浮かばれねぇだろ。オレはオレの罪を、償わなきゃならないんだ」
胸の痛みは、贖罪の証。嘘を吐いた責任は、たとえ団右衛門が苦しい思いをしようと取らなければならない。いつ嘉明に罵倒されるかと怯えながらも、団右衛門は嘉明の言葉を待った。
「――昨日の夜は、お前も八千代もいなかった」
ようやく返ってきた嘉明の声は、まだ冷静で淡々としたものだった。