妖魔滅伝・団右衛門!
第10章 さよなら団右衛門
「もっとも、八千代は謹慎していたのだから、昨日だけではなくしばらく前から側にはいなかった。お前もそうだ。本来なら、いないのが当たり前だ」
「ああ。だから八千代はともかく、オレがいなくなっても、元に戻るだけで――」
「元に戻るだけならば、この胸の空虚はなんなんだ」
団右衛門の自虐は、嘉明の一言に潰される。僅かに強くなった口調に、とうとう罵倒されるのかと、団右衛門は目を瞑った。
「――私はもう、一人の夜に耐えられる程強くはない」
微かに震える声と、鼻をすするような音。罵倒とは正反対の空気に、団右衛門は虚を突かれる。
「よしあ……」
思わず隣に目を向けると、膝を抱え俯く嘉明の背中は震えていた。
「なんで……どうして、今、泣くんだよ。あんた、八千代の話聞いても、いつも通りのあんただったじゃないか」
団右衛門の声に、嘉明は顔を上げ団右衛門の胸ぐらを掴む。厳しく睨む瞳は、絶えず涙を零していた。
「二本とも折られた足で、私に立ち続けろと言うのか」
すると嘉明は、団右衛門から手を離すと立ち上がる。団右衛門を見下ろし、厳しい顔を崩さぬまま、再び口を開いた。