妖魔滅伝・団右衛門!
第10章 さよなら団右衛門
「生きている限りはそれでも立たねばなるまい。足を失っても人には知恵がある。傷はいずれ癒え、生きるため工夫を凝らし、新しい道を見つけるだろう。だが、それが出来るのは前に進む覚悟のある人間だけだ」
嘉明の涙は、未だに止まらない。ぽつ、ぽつと、団右衛門の目の前に落ちてくる。
「私はきっと、夜が来るたび思い出す。八千代という哀れな童を救えなかった己の罪を。そして無力な私を支えた、身勝手で傲慢な退魔師の温もりを――」
地面が一滴の涙に濡れたその時、団右衛門は立ち上がり嘉明を抱き締める。昼間は強く見えたその姿も、黄昏の影に染まれば、頼りなく消えてしまいそうだったのだ。
「……あんた、ひどい人だよ。じゃあオレは、どうやって八千代に償ったらいいんだよ。あんたが泣いてたら、どっかに消えたくても消えられないだろ!」
嘉明は団右衛門の胸に顔を埋めると、背中に手を回す。武勇の割に華奢な手は、身勝手に団右衛門へしがみついた。
「知らぬ。私を生かしたいと思うなら、どこにも行くな」
団右衛門が今手を離せば、嘉明はさらに泣くだろう。いつか傷は癒える、と言っても、今傷付ける事実には変わりない。