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妖魔滅伝・団右衛門!

第2章 嘘つき団右衛門

 
 誰よりも高潔であるはずの主が、流れの退魔師に覆い被さられ、犯される姿。足を開き団右衛門を引き込む様は、八千代の心臓を止めてしまうくらい衝撃的だった。その上、嘉明は団右衛門の首筋に唇を這わせ吸い付いている。団右衛門の気が触れてなすすべなく犯されたのではなく、明らかに合意の行為だった。

 嘉明は、小姓一人までも大事に扱う殿である。だが、誰か一人を贔屓する事もない。長年仕えた家臣なら労られても納得がいくが、現れて一週間も経っていない団右衛門が、嘉明の寵愛を受けるなど、あってはならない事だった。

 八千代は二人に知られないように引き返し、音もなく襖を閉める。だがその後すぐに足が震え、歩けずにその場へしゃがみ込んだ。

(嘉明様……どうして、あんな人を)

 目を閉じれば、瞼の裏に浮かぶのは団右衛門に抱かれ、誰も見た事のない妖艶な表情を浮かべる嘉明の痴態。耳を塞いでも漏れ聞こえる喘ぎ声に、八千代から歯軋りの音が鳴る。

 人払いをしているため、八千代以外の人間が近くに来る事はない。八千代が浮かべる憤怒の表情を見た者は、どこにもいなかった。
 

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