
妖魔滅伝・団右衛門!
第3章 加藤と加藤と団右衛門
遊女は魅力ある自分の体を抱きしめ、恋い焦がれる乙女の目を城の方に向ける。
「その時お殿様は、こんな身分のあたしに声を掛け、労いのお言葉をくれたのさ。それと、舞が上手だったとお褒めの言葉もね。残念ながらお殿様は遊女の誰も夜伽に呼んでくれなくて、その時は本当に芸だけ披露して帰ったんだけどさ。そんな所もまた、素敵じゃないか」
遊女は感嘆の溜め息を漏らすと、団右衛門の背中を蹴って部屋から追い出した。
「とにかく、お殿様の悪口を言うような無頼漢に用はないよ。とっとと帰りな!」
「誰が無頼漢だ! オレは退魔師だ、退魔師っ!」
「怠慢師の間違いだろ? 怠慢師」
結局団右衛門は胸の靄を晴らすどころかさらに広げ、金だけ取られて放り出されてしまう。団右衛門は小石を投げて悪態を吐き、城内にある自分の部屋まで戻る羽目になってしまった。
(くそっ、なんなんだこの国は! 皆嘉明嘉明って、あいつがそんなに偉いのかよ!)
嘉明は志智を治める主なのだから、この辺りで一番偉いのは団右衛門だって分かっている。しかし、ろくに会った事のない遊女まであんなに厚く支持しているのも、珍しい事であった。
