
妖魔滅伝・団右衛門!
第1章 夜討ちの退魔師団右衛門
表情はあまり変わらないが、嘉明が一番気にしているのはこれだと団右衛門は察する。内心辟易しているのだろう、嘉明は小さな溜め息を吐き、頭を抱えた。
「あんたの顔なら、昔、色小姓だったとしても納得なんだがな。まあ経験がないんじゃ辛いだろう」
微かに憂いを見せる嘉明の顔は、思わず弱みに付け込んで良からぬ事を企んでしまいたくなる色気がある。団右衛門は唾を飲み込むと嘉明から目を逸らし、うっかり鬼と同類になりそうな自らを制した。
(しかし、淫夢か。薄々感じてはいたが、この鬼は殺しが目的じゃないな。精という精を絞り尽くす気まんまんだ)
人間の魂や肉は、鬼にとって極上の食物であり、精力剤だ。だが文字通り食べてしまえば、効果こそ絶大だが、一度で楽しみは終わってしまう。新たな獲物を次々と探せば人間も警戒し、退魔師を呼んでしまう。遠い平安の世、安倍晴明を始めとする戦を経験して、鬼も学習しているのだ。滅多な事で、人間を殺すような真似はしなくなっていた。
代わりに鬼が始めたのは、人間の拉致と奴隷化だ。これは鎌倉、室町と続き、現在も密かに行われている蛮行だった。
