妖魔滅伝・団右衛門!
第4章 足軽退魔師団右衛門
そう言われて見てみると、虎に敵意があるようには見えない。清正は顔が涎でべとべとになる程舐められているし、清正を押さえつけている足から爪も出していなかった。
「全く……寿命が十年は縮みましたぞ! 質の悪い悪戯は控えて下さらんか」
家臣は団右衛門の言い分を信じ、胸を撫で下ろす。そして再び有り得ない光景を眺めると、ぽつりと呟いた。
「しかし、虎を夢中にさせる清正様も、それを前にしながら平然と眠る嘉明様も、共に豪胆な方ですな……」
「そうそう、嘉明がもう寝ちまったからさ、寝所まで運んでくれよ。清正はオレともう少し飲むからさ」
「なぜあなたが仕切るのですか! それに、よく見るとなぜ嘉明様は縛られておいでで……」
渋る家臣の姿を見ると、清正も団右衛門に同調し声を上げる。
「いや、それは嘉明が酔って暴れるから、仕方なくな。寝た今なら外しても問題ないさ。さ、こいつの言う通りにしてやってくれ。嘉明はまだ病み上がりだろう、あまり付き合わせても可哀想だからな」
客人である清正に言われれば、家臣も従うしかない。嘉明を連れて家臣が出ていくと、団右衛門は笑顔をひきつらせて呟いた。
「……重い。いい加減どけろよあんたら」
清正がどうにか虎から脱出すると、団右衛門もようやく一人と一匹から解放される。