
ベース
第1章 窓の向こう
「翔子ちゃーん!」
土で汚れた大きな5番と書かれている白いユニフォーム
この人はよく来るから覚えた
たしか同じクラスの中島君
「肘擦った、絆創膏貼ってよ」
「“ちゃん”じゃなくて“先生”でしょ?」
男のくせしてちっさな擦り傷で
言うまでもなく天野先生目的
「ふふ、ここ座って」
痛がりながらも少し嬉しそうにソファへ腰掛ける中島君
先生が絆創膏を取りに行った時
私の視線に気付いたのか、目が合った
「黒瀬帰らねぇの?」
思えば部活をしていない私は
もうとっくに帰宅している時間
それでもここにいる理由は
家に誰もいないから
それと
「もう少し見てたいんだ
さっき誰か打ったよね」
「あぁ、あれ? 俺だよ
絶対いけると思ったのにさ
田中に取られちゃったよ」
嘘 …
あんなでっかい球
取った人 いたんだ
