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白衣と天使

第2章 two

安「信ちゃん。今年ももうすぐクリスマスやねぇ。僕んとこにも、サンタさん来てくれるかな?」

雛「お前、何歳やねん。」

安「ん?子供でも大人でも、サンタさんには関係ないもん。…たぶん。」


クリスマスだ、年末だと世の中は騒がしい。

病棟にだって、小さなクリスマスツリーくらい立ててあったりするが、
外の世界ほど華やかなもんやない。

むしろ、なんだか無理してるみたいにみえて、虚しいくらいだ。

今日も、体温だ、血圧だと、
ヤスの部屋を無駄に行ったり来たりしては、こうして何気ない話をしている。
この時間が俺にとってはかけがえのないものだ。

安「昔なまだ、ここに入院する前の話。サンタさんに、『お父さんとお母さんが欲しい』って、お願いしたことあんねん。ほら、靴下にお手紙入れて。でも、その年のプレゼントは、ローラースケートやって、俺、書いたもんとちゃう!言うて号泣してさ、施設の先生たち困らせてもうたことあったねん。あれは、今考えるとめっちゃ申し訳ないことしたわー。」

苦笑いしながら、そんなことを言うヤスは、どこか寂しそうに見えた。

ヤスには、生まれたときから両親がいない。
父親は、ヤスが生まれる前に亡くなってしまい。
母親は、体が弱かったせいか、出産を終えてから、そのまま…。

ヤスはずっと施設で育てられ、体を崩してからはずっと、病院にいる。

だから、お見舞いには、施設の先生がたまにくるくらいで、
その他の訪問者はほとんどない。

雛「…今年は?今年は、サンタさんお願いせぇへんの?お手紙書いてみたらええんちゃう?」

安「え?……そっか。そうやね。書いてみよっかな。ちゃんと、届くかな?」

俺の言葉に、一瞬驚いた顔をしたヤスは、
それでも何かを悟ったようで、
嬉しそうに笑った。

雛「まぁ、ものは試しやろ。」

安「なんか、その言葉、信ちゃんらしいね。」


いや、きっとサンタさんは、お前の願い聞いてくれるよ。


「ペンどこにあったっけ?」なんて、本格的にお手紙の準備を始めたヤスに、
俺は、そう心の中で呟いて頬を緩めた。

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