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幕末乱舞

第1章 序

 せとは制服のポケットからスマホを取り出して、電源ボタンを押す。
 表示された液晶画面には未読メールのマーク。
 内容は読まなくてもわかっている。
 おせっかいな友人の「学校に来ないの?」という義務的なメール。
 それでも今すぐそのメールを捨ててしまえない自分にも腹がたつ。
 いつからだろう。
 こんな風に考えるようになったのは。
 昔は素直でいい子だったはずなのに。
 空を仰ぎ見ると雲ひとつない晴天。
 せとの心などまるで無視な天気。
 天は思春期の少女のちっぽけな憂鬱など理解してはくれないのだ。
 せとは空から目を反らして立ち上がった。
 公園の滑り台の天辺は思ったよりも高く、ここから飛び降りたら怪我をしてしまうかもしれないと思うくらい。

 ・・・・・・賭けてみようか。
 怪我をすれば何かのきっかけになるかもしれない。
 このひどく退屈で不毛な日々が変わるきっかけになるかも。
 馬鹿馬鹿しい賭けだけど。
 退屈しのぎにはなるかも。
 ・・・・結果はわかってるけどね。
 それでもせとは小さな期待を胸に抱き、大きく息を吸うと手すりを足で蹴って飛んだ。

 それがまさかあんなことになるとは夢にも思わずに。

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