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狐の嫁入り

第2章 不思議な出逢い

月子が帰って行くのを、ギンはじっと見つめていた。

「―人間の娘に『名前』をもらったの?」

後ろで―鼻にかかった、棘を含んだ声がした。

「イズネ・・・あんたには関係ないだろ。」

「分かっているの?わたし達は人間に『名前』を贈られたら―。」

「ただの狐に戻ってしまう、だろう?」

ギンはにやり、と笑って言った。

「分かっているならどうして・・・。」

「俺、月子に幼い頃逢ったんだ・・・綺麗になった彼女に、『名前』を贈ってもらいたかっただけだ。」

「―俺は先に戻る。」

ギンはそう言うと鳥居をくぐって、狐たちの村へ戻ってしまった。

***

取り残されたイズネは、ぎり、と唇をかんだ。

「ギン、あなたは知らない・・・私が幼いころからあなたに抱き続けてきたこの想いを・・・!!」

彼女の悲痛な叫びは、闇の中へと儚く消えていった。

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