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ドラクエ短編集(クリアリ)

第2章 今だけは…

「ありがとう……」

とす、と胸のあたりに軽い衝撃を感じた。

何が起きたのか、咄嗟にはわからなかった。





だが。





「!!」

椅子から立ち上がったアリーナ様が、私の胸元にしがみつくようにして体重を預けてきていた。

亜麻色の絹糸のような髪が、さらさらと揺れる。

「ア…アリーナ様…?」

「本当はね……怖いの」

いつになく弱々しい声。心なしか私の法衣を掴む手も震えている。

「お父様も、お城のみんなも、もう………」

そこに続く言葉は容易に想像できる。



いつも前向きに考えているのだと思っていた。

困難なことが起こると、俄然やる気が出る方だと思っていた。

今回のことも、ショックは受けたものの、いつものようにそれを前向きな力に変えて、さらなる冒険に向かっていくのだと思っていた。



でも、そうではなかったのだ。

本当は不安でいっぱいなのだ。

それを皆に悟られないよう、あえて気丈にふるまっていたのだ。



どうして気付かなかったのだろう。
何よりも大切に守りたいと思ってきたのに。

自分の不甲斐なさが情けない。

「アリーナ様……」

私にできることは、あなたを見守ることしか…

「……って、言って…」

「?」

「『大丈夫』って言って…」

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