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スノードロップ

第1章 こい、はじめました。

「……はあ」

布団のなかで、もう何回ともしれないため息をつく。
最悪だ。
頭の中はその思いでいっぱいだった。
せっかく会えたのに、話し掛けてもらえたのに、覚えていてくれたのに、すべてを拒否して全力でその場から逃げたのだ。
自分の行動に腹が立つ。悲しくなる。
もっと大人な対応が出来たら、今ごろは浮かれ気分でいれたのかもしれない。
思い返しても仕方がないことを思いだし、落ち込み、と負の堂々巡りをしていた。

「(わたしは最悪だ、最低だ。絶対変に思われた。もう会えない)」

悲しすぎると涙も出ない。
そんな一節をどこかで読んだことがある。
あの人物に恋をしてから、人生での初体験が短期間に何度も何度もやってくる。
それに対するストレスや、疲労も去ることながら、体験できることへの幸福も少なからず感じていた。
これからはそれすらも感じることが出来ないのだろうか。
だから悲しいのか。
もう会いたくないけど会いたい。
両極端な想いにどうしていいのかわからなかった。
今はただ、時間がどうにかしてくれることを祈っていた。

美月にとっての、一大事から時間は流れ、桜咲く季節が巡ってくる。
美月はあれ以来『マンサク』には出向かなかった。
いや、心情から出向けなかったという方が近いか。
大学に出るには店先を通らなくてはいけなく、そこだけいやに早足になった。
相変わらず会いたいような会いたくないような感情は変わることはなく、美月のなかをぐるぐるしていた。
まだ始まったばかりの大学生活、忙しく過ぎてくれれば、少しは忘れられるかもしれないと期待をする。
幸い中学からの親友も、同じ学科で通うことになっていたため、それも1つの救いだった。
美月の唯一の親友[中原真紀]には、彼女の身に起きた一連の体験は伝えてあり、それに対しても、大きくリアクションは取ることなく、すべてを聞き入れてくれて、美月にとってはとても有難い存在だった。
だから、大学生活に慣れれば、よくも悪くも忘れられると信じていた。
そんな折り、親友・真紀からの提案に、いきなり悩むことになるとは思ってもみなかったのだった。




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