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月のない世界の中で

第1章 起因

「これは、ヒドイわね…私から先生に事情を報告しておくからゆっくり休んでいなさい。」

保健医の姫野はいつも優しい。

心の拠り所を失いかけている生徒にそっと寄り添ってくれる。

彼らが抱えた問題を解決する為にいるのではない。

負った傷をゆっくりと癒してくれる、特別な存在だ。


滝が言われるがままに保健室のベッドへ向かうと既に一人、先約が居た。

二つあるベッドは一つ一つがカーテンで仕切られていて、その裾口から見えた学校指定の上履きを見る限り恐らく1年の女子生徒だろう。そう滝は思った。

メガネを粉々に壊された時の体育の授業もこうして保健室で休んだ記憶があった。

その時も、横に同じ靴が見えていた。

ベッドに入ると滝は日頃の疲れを癒すかの様にゆっくりと眠りに就くのである。

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