《番犬女》は俺のもの
第16章 新婚生活 開始!?
「卑怯だろうが…っ」
本性はオオカミなくせして、都合の良いときだけ仔犬になるとは。
納得はできないが彼女は仕方なく米を一口分、箸でとって差し出した。
...パクッ
つづいて鶏肉も
「……」
「…ん、美味しい」
茜が持ち歩くこのささみ肉は、軽く火を通したあとで塩コショウだけの味付けがお決まりだ。
「おいしーね、茜さんの弁当」
特別な工夫は何もないシンプルな鶏肉を、それでも零は美味しいと笑う。
そんなことを言う人間は梗子以来だった。
まぁ、梗子以外の人間に弁当をわけること自体が初めてだったわけだけれど…。
「もう少しもらっていい?……代わりにこれ、あげるから」
零はそう言ってさらにねだりながら、制服から別のパンを取り出してきた。
さっきはジャムパンだったけど
今度はクリームパン。
“ まだ持ってたのか…! ”
「…はめたな」
「ハハ、だって茜さんの弁当食べたかったから」
二個目のパンの存在を隠していた零。
交換とばかりに彼女にクリームパンを渡そうとしたけれど、茜はそれを断った。
──彼女は甘い菓子パンが好きじゃない。
「パンはいらない。わたしは白米で足りるから気にせず食べろよ」
「…なら」
…この時
彼は二重に茜をはめたのだった。
「ならお礼したいから、今日の放課後にご飯食べに行こ」
そう、零の本当の狙いはこっちだった。