《番犬女》は俺のもの
第17章 ライバルな転校生
「僕は、逃げてきたんだ」
「──え?」
「…逃げて…きた?」
「──yes…」
ざわめいた教室を静めるように、落ち着いた声で話を続けるハルク。
彼の目は、やっと自分に関心を持ち始めた黒髪の女生徒に向けられていた。
「あそこで僕が学べたのは、虐めと暴力…それに耐える方法だけ。酷い学校だったよ」
ハルクの表情が曇った。
クラスの警戒の目は、その瞬間に同情へ変わる。
「だからここに来て安心している。みんな、とても優しそう」
そう言って彼が笑うと、疑惑の思いは生徒たちからあっという間に消えた。
「ヨロシク」
「──っ」
その言い方がどこか零に似ているような気がして、茜は別の理由で目を丸くする。
“ 気のせいか…。
悪さをするような男にも見えないし警戒の必要はないのかもな ”
歓迎ムードが再び漂うと、教師の指示にしたがってハルクは窓側の後列に鞄を置いた。