《番犬女》は俺のもの
第28章 ──…逃げるな
もう少し抵抗するかと思ったけど…
今日の茜さんは、いつもより素直。
「──…あ、茜さん。ちょっとあそこのベンチに座ろうよ」
いつもの駅に戻ってきていた茜と零。
待ち合わせた時はまだ明るくて気が付かなかったが、イルミネーションを施されたその空間はまるで光の森だ。
駅の壁は、青と緑の電飾で
広場の木々は白色に光っている。
ピカ..ピカ..ピカ..
「何故だ」
「綺麗じゃん、座ろうよ」
連行までに、執行猶予が出たらしい。
一番眺めのいいど真ん中のベンチに腰を下ろす。
「…っ…ふぅ」
慣れない靴で疲れた足を労りながら座った茜。
何故だろう。
いつもは男のように股を開いて座るのに、今日の服装だと無意識のうちに膝を閉じてしまうのは…。
──…彼女は彼女なりに
零とのデートのために、普段ならしないような努力をしてきてはいるのだ。
「…茜さん」
「ん…?」
「ずーっと頑張ってくれたご褒美、あげるね」
零はそう言うと、懐から小さな白い箱を取り出して彼女に差し出した。