《番犬女》は俺のもの
第28章 ──…逃げるな
白ニットの袖を少しだけたくしあげて、取り付けられた腕時計。茜はそれをまじまじと見つめた。
…腕時計なんて
たぶん3年間くらい持っていなかった。
当時持っていた母のおさがりは、乱闘が原因で壊してしまった。それ以来──邪魔だから持つのをやめた。
「これじゃあ……、もう篠田を殴れないな」
「…俺の作戦、ばれた?」
「…ふっ、…ナメるなよ」
腕を傾けて、時計をじっくりと…
周りの光を反射して中の針が煌めいた。
「──…私にはまだ脚がある」
「…クスッ、だよね」
「ありがとな…」
「どーいたしまして」
初めてのクリスマスプレゼント。
その時計は、目の前のイルミネーションなんか比べ物にならないくらい…綺麗だった。
もっとずっと眩しかった。