《番犬女》は俺のもの
第28章 ──…逃げるな
彼女の思考が喧嘩モードに切り替わる。
そうなると、周りの情報を冷静に分析する自分が現るのだった。
凶器を持った相手から狙うべきか。
それとも、背後の三人からか。
“ ナイフ男はちょうど篠田に近付いているし…このまま、あいつは任せるか、──…! ”
こちらの意図を伝えるために
茜は零に目配せをして……、──だが
「…!これは……!?」
目があったその瞬間、彼女の顔が青ざめた。
──零を心配しているわけではない。
あんなチンピラの刃物ごとき…零の前には意味などなさないと、今の彼女は知っている。
ただ、彼女の勘が…《危険》を知らせてきた。
「この光景は……」
思わずこぼれた、独り言。
この光景には、見覚えがあった。
.....
《 君は…刃物で刺されたことがあるかい…!? 》
思い出すのは
商店街の、捨てられたオフィスビル。
青崎高の不良男と
零を狙って突き出されたナイフ。
それを素手で受け止めた彼の、血に染まる手
狂気を感じた、その瞳───。