《番犬女》は俺のもの
第28章 ──…逃げるな
「おら、さっさと脱げよ」
「…クスッ」
少し俯いた零の目は見えなくて
わからぬほど幽かに…笑った口許が妖しくて。
「──…そんなものを持ち出して…、どういう結果をもたらすかは わかってるよネ」
「…しの‥だ‥? 」
彼の囁きに、誰よりも震えたのは茜だった。
危ない、危ない、危ない
──…怖い
次の瞬間には、身体が勝手に動いていた。
「──駄目だ!落ち着け篠田」
無計画のまま、ナイフ男に蹴りを入れる。
背後から攻撃された彼は前につんのめった。
“ なんとか…っ 早く!あの刃物を… ”
「…ッ 茜さん」
「……ハァっ」
ナイフを離さない男は、転びながらもそれを振り回す。
「…ちっ…、時計に当たるだろうが」
茜は咄嗟に左手を庇った──。
────…
数分後、路地裏にいたのは
こんもり山になったチンピラ達と
綺麗に無傷な、美形のカップルだった。