《番犬女》は俺のもの
第5章 因縁
彼女のコースは駅と反対の方向だ。
暫く走ると坂道が続くようになり、そのまま道を進むと小高い丘にある団地に入る。
「…ハァ…ハァ…ハァ」
規則的に呼吸しながら茜は走り続ける。
丘の上から、茜のアパートや駅を一望できる場所まできた。ここがちょうど折り返し地点だ。
緩やかな下り坂へと変わって
茜は大回りしてアパートへと帰っていく。
────
「6 じ、33ふん!」
もうすぐ家だ。
そのくらいの地点にくると、別のアパートの二階からひとりの女の子が、走る茜に向かってベランダから身を乗り出してそう叫んだ。
茜のランニングと同じように
この掛け声もある意味、日課ではある。
誰が頼んだわけでもないのだけれど…
この近所の女の子は、茜が通りすぎるタイミングで必ず時刻を教えてくる。
「がんばれーー!!!」
「…ハァ…ハァ…ッ…」
返事をする体力が彼女にはないので、軽く手をあげて合図した。