《番犬女》は俺のもの
第28章 ──…逃げるな
ちょうど聞きたいことがあったんだ。
この場所とこの格好が…
適しているかはおいておいて。
「私に隠していることがあるんじゃないのか」
「べつに…ない けど…っ」
「──…ナイフ」
「……!」
軽く咳き込んでいた零だったが
彼女の一言を聞いてピタリ止まった。
「ナイフが怖いのか……? 篠田」
「──…」
「…お前らしく…ないじゃないか」
そうとしか思えない。
弱点などないこの男の
何が起ころうと動揺しないこの男の
いつも冷めた態度のこの男の
苦手なもの。
それはきっとナイフ、──刃物だ。
「いや…怖がってるなら、素手で掴んだりはしないのか…!? 苦手というか…その」
「……」
「そのー、つまりだな」
ピッタリな言葉が見つからなくてぶつぶつと呟く。