《番犬女》は俺のもの
第6章 おさめた拳 ( コブシ )
保健室なんて
何年ぶりに来たのだろう
連れられてやって来た保健室の扉の内には、消毒液のような独特な香りがあった。
その時間、保健室には先生もいない、患者もいない。カーテンがぱたぱた靡いている。
「やっぱり私は帰るよ」
いやいや、入って一秒でUターンしないでよ
「そんな腫れた顔を花崎さんに見られたら、心配させることになるんじゃない?」
「……!」
「ほらそこ座って」
普段は保険医が座る椅子に腰掛けた零は、前の丸椅子をたたいて彼女に差し出す。
面倒くさいが、零の言うことも一理ある…
茜はあきらめて言う通りにした。
「──…」
・・・・で?
「…なんで座ったんだ…?」
「そうだね…、まずは "もしもし" する?
はーい上着脱ごうかね」
そこに置かれた聴診器をもって、キラーン
「……冗談だよ」
「‥‥‥ピキッ・・・」
さすがに空気を読んだ零は速攻で聴診器を手放した。