テキストサイズ

starting grid

第4章 ~決勝~

「颯太がいてくれて助かった。サンキュっ……。」

「せっかくの休暇に、直生を診るとは思わなかった。決勝戦も観戦させてもらったし、俺は、学会があるからドイツへ向かうけど……ここのメディカルセンターに記録は残しておくから、ちゃんとこっちの医者に引き続き診せろよ?」

学生の頃から穏やかな颯太だが、昨年……ずっと付き合っていた彼女と結婚してから拍車をかけて落ち着いた雰囲気を纏っている。

「あぁ、学会は明日だろ? 久しぶりにディナー一緒にとろうぜ。久しぶりにのめりこめそうな娘みつけたんだよね、颯太にも紹介したいしさ。」

直生はそう言って、片目を瞑った。

「……ったく、相変わらず…俺様だよな。直生は…。いいよ、つきあうよ。」

呆れたように嘆息を一つ吐き出し、颯太はそう返す。

そうして、一瞬後……心配げに覗き込んでいる父親に笑みを浮かべた。

「おじさん、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ? 一週間も固定してれば、若いからすぐくっつきます。」

「あぁ、悪いね。休暇中に、世話をかけて。」

ほうっと安堵したように、父親はそう言って、頭を下げる。

そうして、直生の頭に掌をのせ、口を開く。

「直生、私は日本に戻る。…朝陽を頼むぞ。」

父親はそういい残し、パドックを後にした。

そんな父親の後姿を眺めつつ、物珍しそうにモニターを見上げたままの朝陽に直生は声をかけた。

「朝陽。珍しいな、お前がわざわざレースを見に来るなんて。」

「兄貴がクラッシュするからさ。心配にもなるよ。」

そう言って眉をひそめた朝陽の頭を直生は撫でる。直生の頭を撫でる癖は子どもの頃から変わらない。直生なりの愛情表現であるらしい。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ