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第1章 プロローグ

「お疲れ。調整するから、少し休憩しとけよ。」




チーフ・メカニックで監督でもある凜は、そう言ってタオルを投げてきた。




「おう、サンキュ。」




挨拶程度にそう返し、直生はPCの前で難しい顔をしているプログラマーの明澄栞(あずみ しおり)を眺める。



栗色の長い髪を無造作に纏め、大きな目元が印象的な彼女に、直生は何事かと聞いてみた。




「何か、問題でもあるの?」




「大丈夫よ。昨年のデータと比較してただけ…。」




「そう。まぁ、聞いても俺は判らないけどさ。」




自嘲気味に直生はそう返すと、スポーツドリンクを手に取った。



そんな直生に、栞は徐に告げる。




「予選…雨降りそうなのよね。……直生、雨苦手なんだからしっかり走ってね。」




「げっ、最悪。よりによって、予選で降らなくてもいいのに。」




ぶつぶつとそうこぼす直生に、後ろから凜の声音が飛んだ。




「直生っ、調整できたから、出て。」




「ほぉーい。ちょっと、流してくる。」




やる気があるのかないのかわからない飄々とした態度で、


直生はそういい残し、メットをかぶった。




「本気で走ってこいよ。二連覇かかってるんだからな。」



窮屈なコクピットに身を沈めると、真剣な表情で凜がそう声をかけてくる。




「本気で走るのは、決勝だけでいいって。俺の寿命、縮める気?」




軽口を叩くと、直生は一瞬瞳を閉じ、真剣な瞳を前方へ向けた。



そうして、カーナンバー1をサーキットへと走らせていく。


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