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第5章 ~過去の片鱗~

「あの…、ごめんなさい。私の所為ですね。」




今にも泣きそうな表情で花音はそう言って俯いている。



直生は僅かに嘆息をこぼすと、穏やかに返す。




「花音ちゃんの所為じゃないよ。


怪我して無理にレースに出たのは俺の意思だからさ。


それにレーサーは怪我が付き物だからそんなに気にしなくていいよ。」




「でも…。


私がコース内に入っちゃわなかったら、


直生さんはもっと楽に決勝走れましたよね。」




花音はそう弱弱しい声音で言った。


そんな花音を覗き込むと、直生は真面目な口調で告げる。




「うん、そうだね。


走れたかもしれないし、走れなかったかもしれない。


済んでしまったことをあの時こうしなかったらどうだとか仮定の話をしてもどうにもならない。


俺はさ、花音ちゃんに謝って欲しくて連れまわしてる訳じゃないよ。


花音ちゃんが気が済むかなと思って理由をつけて傍に置いてるだけだから、


花音ちゃんが気が済んだなら俺なんか放っておいてくれていいんだよ?」




「そんなこと言われたら、放ってなんかおけません。」




優しげに見つめてくる直生に、花音は凛とした瞳を向けてそう言い切った。




「別に気にしなくていいのに……。


颯太と何話したの?」




「直生さんが遊び人になった元凶?」




直生は花音の返事に、思わず飲んでいたワインを噴き出しそうになった。


慌てて何とか飲み込むと、颯太を睨みつける。




「颯太、余計な事を吹き込むなよな。」




「そんなに明澄のことを知られたくなかったわけ?」




苦笑をこぼしつつそう返してくる颯太に、直生は嘆息をこぼした。




「そんなんじゃないけど、彼女にストーカーしてたなんて格好悪いじゃん。


自分で異常だと思うもん、俺。」




中等部から高等部にかけての三年間、ひたすら栞を盗撮やら記録やらしていた直生は、


今自分で振り返っても病的だったと思うのに…、


他人から見るとかなり可笑しいヒトに映るだろう。

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