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秘密のアルバイト

第48章 撮影のあとに

何も言わない智。
タオルで綺麗に俺の体を拭く。
今までの智なら“かず・・・”なんて言いながら、抱きしめてくるのに、どうしたのかな?


「はい、綺麗になったよ。
風邪引くといけないから、早く服着ろよ」

「えっ・・・あぁ・・・うん」


先に服を着て部屋に戻る智。
どうしちゃったんだろう?

俺も着替え、部屋に戻ると、ルールサービスを頼んだのか、飲み物が2つ届いていた。


「あっ、アイスコーヒーでよかったよね」

「うん、ありがとう」


大きな窓にもたれかかり、外を見ながらビールを飲む智。
潤と同じ、その姿は凄くカッコイイ。
俺も景色を眺めながら、アイスコーヒーを飲んだ。
ビールが喉を通る音と、ストローでかき回される氷の音だけが、部屋に響く。


「かず、そろそろ行こうか」


テーブルの上に、飲み干したビールの瓶を置く智。


「うん・・・あっ・・・えっ!?」


グラスを置いた俺に、まさかの壁ドン。
俺の顔をじっと見つめる。
悲しそうなと言うか、思い詰めたようなと言うか、その表情を見て俺は、寂しさを感じた。


「えっ・・・!?」


キスされると思いきや、ギュッと抱きしめた。


「さと・・・し・・・」


どうしてか、この時俺は智の背中に腕を回すことができなかった。
しばらく抱きしめると、ゆっくりと体を離していった。


「さぁ、行こうか」


部屋を出てエレベーターに乗りロビーへ。
そしてホテルを出た。


「あっ、智・・・」

「ごめんかず、俺ちょっと行くところがあるからここで別れよう。
痴漢に気を付けて帰れよ」

「うん、ありがとう」


俺は1人、近くの駅へ向かった。
この時は俺はまだ、智が今日を最後に本気で俺の事を諦めようとしていたことに、気がついていなかった。

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