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~夢の底─

第7章 晩夏風──

 「あちらの方、お養母さん?」チャンミンが訊いた。
「教会ボランティアです」少し、眩しそうな眼になり、老婦人をかえり見て云う…ボランティアの婦人は、車椅子を押し、木陰にゆるゆるした足取りでゆく─。
 「あの、お久しぶりです…チャンミンさん、お仕事ですか」笑顔をみせた。
「謝りに来た。もっと早くに、今更だよね…でも」「よく判らないけど─」後ろに向くと、「少し、話ましょうか」かたわらに、遊具のような細長な乳白色の石造りがある。二人は腰を下ろした。
 「最後の夜に、恥ずかしいことして、ほんとにすまないっと思って。申し訳なくって─酷い…無様で、みっともない終わり…」「チャンミンさん」無造作に結んだ髪を揺らし、「それだけ、わざわざ云いに? ここまで─来て…」後ろの方から、風にのって歌うような声がした。
 揃って二人が振り向くと、老婦人が車椅子のなかを覗きながら、ゆるやかな節回しで唄っていた。「─お養父さん?」チャンミンが訊くと頷く。 「今日は気分が落ち着いてるようです」「お養母さんは」「シンガポールです。古い知り合いのお宅にいます」ちらっとチャンミンを見上げ、「ここにいること、どうして…」「管理人さんが、教えてくれた─きみのアドレスに行ったんだ」

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