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青い桜は何を願う

第8章 懺悔は桜風にさらわれて


 莢は、デラの顔を、今ならはっきり思い出せる。

 大嫌いで、大好きだった。

 このはとは、友人とも仲間とも呼べない不思議な関係だ。
 カイルとデラも同様だった。

 さくらとこのはと三人で、また、氷華での楽しかった日々をいつの日か取り戻せるか?

 莢は、デラを許せそうにない。

 資料庫で二時間余り気を失って、目覚めた後、帰路の途中で行夜の話の続きを聞いた。あの話が本当なら、デラはリーシェの純潔を奪って、無毒の氷桜を授かったということになる。

 莢が見たこのはの胸に咲いた青い花は、リーシェとデラとが愛し合った証拠だ。

 さくらの氷桜に蝕まれた身体が、何故、たった数時間で回復したのか。
 何故、このはがその身体にあるしるしを、「花の聖女」の影武者のためにタトゥーシールを常用しているのだと騙ったのか。

 それらはつまるところ一つの真実に結びついていたのだ。

 莢は、カイルがよく結んでいたような白雪色のスカーフを、首元で整えた。

 車窓から古びたバス停が見えてすぐ、バスが停車した。

「◯◯海岸前ー……◯◯海岸前ー。お降りになるお客様は、手摺りをお持ちになって──」

 莢は車内にアナウンスが流れ出すと、腰を上げた。

 切符を出すべくポシェットのファスナーを開けたやにわ、行夜のサインが入った小切手が、ちらと覗いた。

* * * * * * *

 西麹学園の風景は、いつもと変わらない春休み中の朝だ。
 演劇部の使用教室も、ほとんどの部員が揃っていた。時刻は八時五十五分、まもなく稽古の始まる時間だ。

 流衣は、同級生の河合もも(かわいもも)から、たった今このはの欠席を聞かされた。当然、部活どころではなくなった。

「休み?!」

「ええ、休み。私、一応、部長だし。弦祇さんに連絡もらったの」

「理由は?」

「デートだって。何度言わせれば気が済むの。大体、弦祇さんとメールしてないの?試験明けに合コン行くって言ってたんだし、好みの子でも見付けたんじゃない?」

「そんなものこのはが見付けるはずない!」

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