
青い桜は何を願う
第8章 懺悔は桜風にさらわれて
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寄せては返す水面(みなも)のフリルを眺めていると、後方から吹き寄せてくる故郷の花の芳香が、妖しい濃密さを帯びた。
莢が振り向くと、海波を浴びた岩場の側に、少女が一人、立っていた。
「このは……?!何で……」
一瞬、生き霊にでも出くわしたかと思った。
一方で、莢は、この状況をすんなり受け入れていた。もとよりこのはがここを知る由もなかったが、あらゆる辻褄が一致した。
「何しに来たの?」
「さくらちゃんと莢が会うのを阻止しに来たの。四月一日、リーシェ様とカイルが再会を果たすかも知れない。それは有名な話だもん。場所は割り出せなくても、聖花隊はうじゃうじゃいる。一斉に手分けでもすれば、襲われる可能性はゼロじゃない」
このはが岩場を、とん、と離れて、莢に距離を詰めてきた。
「ね、今までどうしてたの?メールも寄越さないで……私、気になってたんだよ。莢も私も、真淵の件から、目をつけられてる。莢に何かあったんじゃないかって」
「このは」
莢は、形容し難い憤りを覚えていた。
煩わしい清洌な目から注がれてくる眼差しを浴びるまいと、このはを視界から排除する。
「何」
「カイルがリーシェ様をお迎えに行った時、どんな風に今日のことを約束したか、私このはに話した覚えはないんだけど」
「……──っ」
このはから伝ってくる気配が変わった。
