
青い桜は何を願う
第8章 懺悔は桜風にさらわれて
「流衣先輩……」
デラの魂にこびりついた罪だとか呼ばれるものは、消せない。リーシェから奪ったものは元に戻せるものではないし、あの頃のデラを誰かが理解してくれよう望みもない。もとよりそんなものは期待してもいなければ、このは自身が慚愧すべき所以もない。
ただ、このははデラの記憶を持って何度も転生を繰り返してきた魂を、救われたかった。解放されたい、許されたかった。
「私もう、っ……」
「このは……?」
自分自身の他に誰か頼れた試しはなかった。
流衣は稀少な存在だ。かつてユリアは、氷華の人間でもなく天祈の人間でもないデラを肯定してくれた。
このはにとってもデラにとっても、そんな人間はリーシェと彼女の母を除けば、初めてだった。
「怖かったんです。昔を繰り返してしまいそうで……。氷華と天祈が争ったって、私には関係なかったのに。私はユリアが大切で、リーシェ様も大切で、それだけだったのに」
「…………」
「もう戦いたくないって私、ずっと過去から逃げていました。けど、リーシェ様や氷華を見限ったわけじゃない。今の私が大切だから。生まれ変わってきたことが無意味なら、輪廻なんてないはずなんじゃないかって、……意味があるから、先輩や私は生まれ変わってきたんだと思いません?さくらちゃんや莢だって。それはきっと、過去は過去、今は今で、ここにあるものを守るため」
上手く言えない。このはにはそれがもどかしい。
「解るよ」
流衣の短い相槌に、このはの胸が高鳴った。
純粋に、ありふれた類いのときめきだ。
「私も、このはには、リーシェから解放されて欲しかった。デラを愛していたユリアは私だ。でも今は、あの子だからとかじゃなく、このはが大切なだけ。君と私が出逢ったのは、多分、偶然なんかじゃないから」
「……──」
「このはが本気で美咲って子が大事なら、仕方ないって思うしかない。けど、負い目や責任感からあの子を想ってるなら、私はあの子を認めない。君が追いつめられるだけだ」
「──……」
分かっている。だがどうすべきかまで分からない。
