
青い桜は何を願う
第8章 懺悔は桜風にさらわれて
「さくらちゃんが気になったのは、三年前の学祭です。超古代でなんかじゃありません。先輩を、その……大事なのは……生まれ変わったら必ずっていう、あの約束を、妖精の丘で冗談みたいに、でも真剣だったあの約束を忘れちゃってたのは……恋人に、とか、分かんなくなっちゃったのは……多分、私がデラじゃなくなったから……」
「だったら」
「はい?」
「もうやめよう。こんな無謀なこと、続けていても仕方がない」
──戦いを?
──それとも、さくらを守ることを?
どちらにせよ、ただもうこのはは流衣に頷く他になかった。このはには流衣を否定出来ない。
このはは、流衣の背に、黙ってそっと腕を回した。
「あのー。私には話が見えないんですが、よそでやってもらえませんか?正直目のやり場に困るって言うかー……」
このはは流衣と二人して、香苗の控え目でありながら心底迷惑そうな割り込みに、腕をほどいた。
* * * * * * *
手を繋いで退散した少女達の背を見送ると、香苗は深く息をついた。
どこにも発信していない携帯電話で、助けを呼ぶ素振りをしてみせるのも、至難の業だった。
莢は未だ目覚めない。
こうしておとなしく眠っていると、さらさらの髪からしても、ジョーゼットの如くきめこまやかな肌からしても、まさしく本物の人形だ。その実、超弩級の自己愛者で、かと思えば救いようのないほど自虐的なところもある。人間以上に人間臭い。
いつのことだったか。香苗は気付くと、この不思議な少女から目が離せなくなっていた。良い意味でも悪い意味でも、莢に纏縛されていた。
「賭けは貴女の負けかもね、莢」
正午過ぎにこの海に来て欲しい。
もし自分が気を失っていたなら、人払いをしてから起こしてくれ。
香苗が莢に不審な頼み事を持ちかけられたのは、昨夜、一緒にホラー映画のDVDを観ていた時だった。
久々に泊まりにきた恋人へのもてなしがホラー映画だとはふざけたものだと、香苗は腹の内で苦笑した。
祖父母と三人で暮らしている恋人は、そこいらの少女達より家事も並外れてこなせる。手料理くらい振る舞ってくれても良いのにと、内心恨めしがりながら、それでも莢と肩を並べて過ごす時間は、ブラウン管いっぱいに展開されてゆく殺伐としたロマンスに彩られたものであれ、替え難い喜びを与えてくれた。
