
青い桜は何を願う
第2章 出逢いは突然のハプニング
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昼休みが始まって、三十分が過ぎた。
さくらの弁当箱の中も、すっかり空になっていた。透に構いっぱなしのまりあの隣で、一人、黙々と食事を進めていたからだ。
「美咲さん」
さくらが残った昼休みを持て余していると、落ち着いた柔らかな声に呼ばれた。
顔を上げると、そこに、高等部二年生の手芸部副部長、今井妃影(いまいひかげ)の姿があった。
豊かな長い黒髪に、何もかも見透かされそうな思慮深さを湛えた双眸、そして妃影の聖母を彷彿とする微笑みは、優しくて、いつでも得も言われぬ貫禄がある。
「今井先輩。どうかなさいましたの?」
「ええ、お休みのところ悪いんだけど、部室に行って、『欧米の服飾史』という文献を探してきてくれないかしら」
「ああ、中二の子達が資料に使いたいって言ってたあれか……。それなら僕が」
「いいえ、先輩!行きますわ」
さくらは、勢い良く腰を上げた。
健気な親友の明るい未来のためだ。これくらい、容易い用だ。
もっとも、透は今時ありえないほど鈍感だ。さくらの意図に、きっと一生気付くまい。
「そ、そう?まあ、美咲さんなら安心ね。透先輩や麻羽さんじゃ迷って帰ってこられなくなる心配もあるけれど」
「あー!今井先輩、それどういう意味ですかっ?!」
「大丈夫だよ、麻羽ちゃん。美咲さんが次期部長候補なら、いつもセットな麻羽ちゃんは副部長に十分考えられる」
「あらあら、それは可愛らしい部になりますわね」
「お人形さんとお姫様ってところかな?」
「美咲さんがお人形さんで、麻羽ちゃんがお姫様……。うふふ、次の文化祭のファッションショーはその線でいきましょうか」
さくらは、透と妃影のどんどん飛躍してゆくやりとりに、付いてゆけなくなってゆく。
からかわれているのか、過大評価されているのか、分からない。
「あの、『欧米の服飾史』ですわよね?行って参ります」
「あ、え、ええ。よろしく美咲さん」
「ごめんね、有り難う」
さくらは、透達からいそいそと離れて家庭科室を飛び出した。
